track07-early-times 家具インテリア業界 Leader's voice| track 07 アーリー・タイムス アルファ

アメリカ産のフェアウッドに
ジャズの遊び心を込めた旭川の家具

2019年11月某日、旭川家具のアーリー・タイムス アルファの青森社長と弊社代表・宮島との代表対談の模様をお届け。企業理念「家具つくり、人つくり、幸せつくり」の意義、青森社長イチ押しの丸テーブルの魅力、社名の由来と音楽の深いつながりなど、7つのテーマで語っていただきました。

アーリー・タイムス アルファ PROFILE

日本の五大家具産地のひとつ、北海道旭川市で昭和27年(1952年)に創業した木工家具メーカー。上川郡東川町に本社と工場およびショールームを構えるほか、東京とニューヨークにも拠点がある。厳正管理した北米産や北海道産の木にこだわり、代表商品は多彩なサイズバリエーションを展開する収納家具や、限られたスペースを有効に使える丸テーブルなど。「フェアウッド(=生産地の環境や社会影響に配慮した間伐材)」を積極的に使用し、環境問題やさまざまな社会的側面に配慮した家具作りを行なっている。

(目次)

異業種から転職して旭川家具メーカーの社長に

青森社長

宮島:青森社長ご自身のご経歴についてお聞かせください。

青森:大学卒業後は不動産会社で営業をしていました。当時、僕の父親は大手の家具販売会社で仕事をしていて、それがとても楽しそうだったんですよね。それを母親にポロっとこぼしたのが父の耳に入って「一緒にやってみるか?」と声がかかり、家具業界に入りました。

宮島:お父上とはつまり、先代社長にあたる方ですか。

青森:いいえ。先代社長は僕の父ではありません。創業者の息子さんが先代社長で、現会長です。創業者には娘さんもいて、その旦那にあたる人が僕の父の弟なんですよ。叔父に呼ばれたのがうちに入社したきっかけで、会社と僕は血縁関係にはないんです。

宮島:なるほど。入社と社長就任は同時期だったんですか。

青森:いやいや、入社は営業としてです。販売担当から「卸も見てくれ」ときて営業部長になり、卸の人と顔を合わせるようになり、うちの商品を紹介していくうえで「工場も見てくれないか」ということで、営業部長から専務になり……の今、という流れですね。平成6年(1994年)に入社し、社長就任からは6~7年くらい経ちます。

宮島:入社から社長になられた現在に至るまでを振り返ってみて、印象的なエピソードはありますか。

青森:正直、社長になるつもりで当社に入ったわけではなく、社長という立場が偉いとも思っていません。「うちの全社員、あるいは仕入れをさせてもらっている会社、取引している会社、そういうブレーンや仲間がいい形で仕事ができる空間を作るんだったら、僕がやれることはやりましょう」という考えでやっています。
家具の小売店を経て、メーカーである当社に入社したわけですが、小売店には売る物がいっぱいあり、たくさんの選択肢の中からお客様が欲しいものを選ぶ。一方、メーカーのショールームに並ぶのは自分たちが作っているものだけ。狭い世界で商品をお客様にいかにして気に入ってもらうか、というところにものすごく集中し、注力する。そういったところにメーカーの面白さや働く人たちのプライドを感じます。
とはいえ、社長職はやはり苦労も多いですね。宮島さんもご存知でしょうけど、孤独じゃないですか。社長としての決断や相談が、会社にとって良くないことだったりする場合もある。いち社員から社長に立場が変わり、経営だけじゃなくこういう苦しさもあるんだなということも感じています。

宮島:よく分かります。人間は周囲の支えや温度があるから生きていけるのであって、独りで仕事や生活していくのは非常にきついことです。個をまとめ孤独に耐え、人間性を作り上げたり、業績という結果が伴ってきたり、他社に羨まれる社風を作っていく、といったことは、間違いなく社長職の使命であると思います。

宮島:経営者として、青森社長が大切になさっていることは何でしょうか。

青森:人として恥ずかしくない生き方や、そのストーリーを大切にすること。社員に対しても「家具1本を作るとき、その先にひとりのお客様がいるという意識を大事にし、謙虚であれ」ということをいちばん伝えなくてはいけないと思っています。
会社が成長し、社員が豊かになって、その家族も笑顔で愛を持って生活するという形が出来上がるためには会社が利益をあげなくてはいけない。だから商品をこういう形に考えていこうだとか、利益にしてもこういう風にしていこう、どういうものを使おうとかいうことの芯の部分をまずいちばんに考えなくてはいけない。
社員に発破をかけるタイプの社長じゃないんですよね、どちらかというと。オーナー社長でもないし、ちっとも偉くなんてないんですけど「みんなが笑顔になるためだったら頑張るから。みんなと同じだよ」ということにこだわって、偉ぶらないようにしようというのは思っています。

環境に配慮しアメリカ産の計画伐採の木にこだわる

北海道の屋根と称される大雪山連邦と旭川市街

宮島:旭川が日本の主要家具産地として発展した要因を教えてください。

青森:北の方に木材がいっぱいあったというのがひとつ。それから、当時のロシアに向けて自衛隊の駐屯所を作るために腕のいい宮大工を北海道に呼び集めたこと。(駐屯所が)出来上がってからもそこに住み着いた人が何人もいて、腕のいい職人が残ったという話は聞いています。

宮島:それはいつ頃の話なんでしょうか。

青森:うちは昭和27年(1952年)創業なんですが、初代社長が青森から北海道に移住して建築・建材の会社を興した頃にはもう始まっていたようですね。

宮島:旭川家具ブランドのさらなる発展において、アーリー・タイムス アルファはどのような役割をもって取り組みを行なっていますか。

青森:なるべく本当の無垢板を使うということですね。15年ほど前に発表して今も作っている「エテルノ」というシンプルデザインのシリーズがあるんですが、展示会に出し始めた頃に「北海道まで買いに来たのに九州みたいな家具を見たってしょうがない」と言われたんです。「北海道らしさって何ですか?」と聞いたら「重厚感があって彫り込みの深いボリューム感のある家具が北海道らしさだろう」と。
家具単体ではなく部屋全体でとらえるイメージが時代の主流になりつつあるなか、北海道らしさだけを追求することはできないなと思いました。
一方で「さすが北海道だね」と感じていただきたいというところもあり。無垢材と、北海道のイメージを損なわない質感の良さ、その両立が旭川家具のブランド力向上につながるのではないかと思っています。

エテルノ

ブラックウォールナット、ホワイトオーク柾目材、ブラックチェリー、ハードメープルのフェアウッドから樹種を選べるシンプルモダンなシリーズ。
無垢天板のボード類やキャスター付テレビ台、食器棚、10㎝刻みのサイドボードなど、曲線のないデザインに仕上げることで豊富なサイズバリエーションを実現。リビングからダイニング、寝室、書斎まで幅広いアイテムを揃えている。

宮島:アーリー・タイムス アルファの家具における北海道らしさとは何か、具体的に教えていただけますか。

青森:まずは、今お話しした無垢材の家具ということ。当社の大ヒット商品に「ポルカ」というシリーズがあります。10cm刻みでサイズと、色も選べるので、ひとつのシリーズだけで何百種類にもなります。その「ポルカ」を脱却させ、北海道らしさを捨てずに新たなシリーズを作っていくのは簡単ではありませんでした。
ひとつ例をあげるなら、横並びの引き出しは木目を通して一枚の板をカットして作るというところも、無垢材で作るこだわりになると思います。
重厚感のある本当の板を使い、デザインは見た目の重さを第一義とせず、使いやすさもありながら、作りのしっかりした、長く使い続けられることが北海道らしい家具ではないでしょうか。

ポルカ

約40年前から製造しているナラ材の家具シリーズで、アーリー・タイムスのロングセラー商品。
製造開始当時はなかった10cm刻みのサイズ展開により、ダイニング(食器棚やテーブル)260種、リビング(TVボードやサイドボード)36種、寝室(ワードローブやチェスト、ベッドフレーム)45種、書斎(書棚やデスク)52種、さらにカラーの種類も含めると、現在のアイテム数は約2000にのぼる。

宮島:材料にはおもにどこ産の木を使用していますか。

青森:アメリカです。なぜなら、計画伐採が徹底されているのが世界的に見てもアメリカだけだからです。商品を作るための伐採で環境が破壊されるような本末転倒なことは絶対にあってはいけない。計画伐採されたアメリカ材で安定供給できるウォールナットとチェリー、ハードメープル、ホワイトオークの4つの材を使っています。
北海道でも計画伐採で「北海道産のナラです」と言える材が少しずつ出てきているので、それも商品のひとつにしています。質の良い無垢材を使って家具を作るという意味では、北海道らしさにシフトしているところがありますね。

音楽との深いつながり。企業ロゴに込めた思い

宮島:家具業界では社名に創業者やオーナーの名前を冠したものや●●家具、●●木工といったネーミングが多い中で、横文字で苗字も入っていない「アーリー・タイムス アルファ」は珍しいように感じるんですが、どういった由来があるんでしょうか。

東川町のアーリー・タイムス アルファ本社。1000平米の広大なショールームが併設されている。

青森:本社は創業時から菊池木工という社名でずっとやっていたんですけど、昭和61年(1986年)にTOCの1階にショップをオープンする際に、ショップ名をアーリー・タイムスにしたんです。さらに平成4年(1992年)にアーリー・タイムスに「プラスアルファ(=何かを付加すること)」のアルファを加えて、アーリー・タイムス アルファが本社の名前になった、という流れです。

宮島:このショールームは4階ですけど、昔は1階にショップがあったんですね。

青森:はい。アーリー・タイムスという名前にした理由は「ア」が50音順の先頭だからというのがひとつ。ただ、英語にすると綴りの頭文字が「E」なので、そこは誰も気づかなかったのかもしれません(笑)。「始まったばかり」や「初心を忘れずに」「さらに進めていこう」などの意味も込めていると聞いています。

宮島:御社の企業理念についてお話しいただけますか。

青森:「家具つくり、人つくり、幸せつくり」です。「良い家具をつくり、販売活動の中で人としての成長をはかり、世の中にたくさんの幸せをつくる」ということですね。先代社長が掲げた理念ですが、僕もその通りだと思っていて、「人として恥ずかしくない生き方やそのストーリーを大切にする」ことに通ずると思っています。
住まいの中で、家具は人のいちばん近くにあるものですから、私たちの作った家具が癒しや幸せの感性が備わっているものとして、使い手に受け入れられたら嬉しいです。

宮島:企業理念が社長ご自身の哲学になりつつある。いいですね。

宮島:御社の企業ロゴは音楽の五線譜をモチーフにしていますが、どういった経緯でこのロゴになったのでしょうか。

青森:僕の入社のきっかけにもなった叔父が、音楽をやっていることもあるんですが、うちは音楽用語を商品名に使用している家具が多いんです。「ポルカ」や「アリア」「シンフォニー」「コンチェルト」とか。今作っているのでいうとこれが「ドルチェ」あちらが「タクト」。僕も新商品を作るときは、基本的に音楽用語にするようにしています。家具と音楽の関りが深いということではなく、うちと音楽の付き合いが深いことを五線譜で表現したかったんです。

ドルチェ

厚みのある木材を使い、重厚さと繊細さを併せ持ち、洗練されたデザインが特長の家具シリーズ。10cm刻みでサイズが選べ、リビング(TV台やサイドボード、飾棚、ソファ)やダイニング(カップボード、カウンター)と豊富なアイテムが揃っている。
ボード類の天板には、テーブル天板にも使用される33mm材を贅沢に使用。扉の引手は厚みを強調しすぎないようシンプルに削り上げ、和風な印象の引戸タイプもモダンに仕上がるデザインが大きな魅力。

タクト

扉と引出しの引手にこだわり、ドルチェシリーズとは逆に(引手に)ボリューム感を持たせた家具シリーズ。コルクと天然杢仕上げのリバーシブル棚板や、台輪の隠し引出し、引出しの隠し鍵など、ポルカシリーズの人気のディテールをそのままに、デザインのみシンプルに進化。
カップボードやカウンター、TV台、キュリオ、アームチェア、ブックボード、デスク、チェストと、豊富なアイテムと10cmみのサイズ展開の中からセレクトが可能。

宮島:今のロゴマークは青森社長が作られたんですか。

青森:そうですね。正確には社長になる少し前くらいですけど。

宮島:ちなみに叔父様がやっている音楽のジャンルというのは。

青森:ジャズです。ニューヨークのクイーンズカレッジでジャズを教えています。叔父の息子たちもジュリアードを卒業しているような音楽一家です。

宮島:音楽とのつながりの深さが商品企画や開発に影響することはありますか。

青森:意識的にそうしているわけではありませんが……僕自身は音楽ではなく、ジャズダンスの経験があるんですけどね、ちゃんとした技術がないとジャズって上達しないんです。音楽も一緒で、クラシックというベースがあって、ジャズの遊びが活きてくる。それが僕の人生観に近いものがあり「なんかちょっと変わってるな」「一見普通のようで、ちゃんと考えて作られているよね」といった商品を作るようにしています。企業ロゴの「E」と「A」がちょっと遊んだ形になっているのも、ジャズっぽいイメージを表現しているんです。

宮島:私は剣道をやっているんですけど、その教えに「守破離」というものがあります。もともとは茶道の言葉で「師匠の教えを守って、師匠の教えを破り、師匠の教えから離れていく。けれど根底には師匠の教えが脈々と流れている」。いわゆる茶道、武道の教えの三段論法というか、3つの要素なんですが、それに近いものがあって非常に興味深いです。

青森:基本を知っているからこそできることですからね。基本は基本として残しながら、それを知った上で新しいことをする・変化を起こすわけですから、知らないでやるよりはずっといいと思います。

青森社長が丸テーブルを推す理由

宮島:青森社長がとくに気に入っている・推している商品を教えてください。

青森:全シリーズ気に入っていますし、推しているのが大前提になりますが、あえてひとつ挙げるとしたら丸テーブルですね。80cmから150cmまで10cm刻みでご用意しています。家族の会話が豊富なご家庭はとくに、丸テーブルの良さがお分かりになると思います。丸テーブルはみんなの目線が中央に集中して会話しやすい。さらに鍋を囲む食卓をイメージしていただくと分かりやすいんですが、どこに座っても中心からの距離が一緒なんです。
丸テーブルの良さを説明するときに1~2時間でも普通にお話しできるのはうちだけだと思っています。おそらくほとんどのメーカーさん、小売店の営業さん、コーディネーターさんが「丸テーブルは場所をとるのでやめた方がいいですよ」って言うと思うんですよ。でも実際は、丸は場所を取らないんです。そのことをきちんと説明すると「丸テーブルが置けるんだったら、本当は丸テーブルが欲しかった」とおっしゃるお客様がたくさんおられます。あるいは四角テーブルを探していたけれど「丸テーブルはこういう使い方ができますよ」とお伝えすると「丸って確かにいいわ。また悩んじゃう」となる方もいます。

宮島:心理学的にも、直線で角(かど)があるものより、曲線の方がリラックスできるというのはありますね。

青森:そうですね。丸テーブルでワイワイ笑いが絶えない空間ができたら、作り手としても御の字です。もちろんすべてのお客様に闇雲に「うちは丸の方がいいですよ」というご提案はしたくないので「四角のテーブルと丸のテーブルの違いだけ教えますね」とお伝えするようにしています。

丸テーブル

無垢材のみで作り上げた丸テーブル。
天板サイズは80cmから150cmまでの10cm刻みで、脚の形状は一本脚と四本脚から選べる。テーブルの高さも1cm刻みでオーダー可能で、家族の身長や体型に合った高さを選択できる。
青森社長「丸テーブルは、使う人数が少ない時も増えた時も嫌な感じがしません。場所をとらないことをご理解いただければとても使い心地が良いので、ぜひ体感してみてください」

青森:もうひとつお客様に知っていただきたいのが、うちはテーブルも椅子も高さを選べるようにしています。日本のメーカーの椅子の座面高はだいたい42cmですが、年齢や性別によって身長差がありますよね。欧米は家の中でも靴を履く生活で、女性もヒールを履いていれば椅子に座ったときの身長差は少ないですけど、靴を脱ぐ文化の日本の場合、ほとんどの女性は42cmの椅子では床にかかとがついていません。かかとがつかないと血流が悪くなるので、足を組んでそれを解消しようとするんです。
うちではダイニングセットを検討しているお客様には、「靴を脱いで座って、かかとが床につく椅子が体に合った疲れにくい椅子です。ご家族それぞれの椅子の高さを決めてから、テーブルの高さをどこに合わせるか決めましょう」とご説明しています。

宮島:一人ひとり疲れない高さに合わせた椅子とテーブルですか。もはやセミオーダーですね。

青森:サービスの範囲でやっていることなので、値段が高くなることはありません。「好きなものをまず決めましょう。それを選んでもらうための高さの違いですよ」という。テーブルひとつでも四角にするか丸にするか、椅子の高さは、座り心地は……。いろんな話題があるのでずっと話していられるんですよね。話していくうちにご家族やお仕事のことなど、お客様のプライベートなお話もお聞かせいただいて、より盛り上がるというのもあります。

スローファニチャーの会とクラフトマンシップ

宮島:日本と世界のクラフトマンシップを応援する「スローファニチャーの会」に御社も発起人のひとりとして名を連ねていますが、参加に至った経緯をお聞かせください。

青森:「長く使える家具を使いましょう。短いスパンで寿命がくる家具ではなく、良い家具を選んだ方がいいですよ」という会の考えに賛同したからですね。長く使い続けるという点はその通りだと思いますし、我々もそこに特化してものづくりをしています。
今、3R(スリーアール)という言葉が出てきているじゃないですか。リサイクル、リユース、リデュース。中でもリデュースは環境省はじめ世界的に推進されている「減らす・捨てない」の考え方です。その部分を家具で実践するなら「直す・リペア」になるのかなと。無垢の板を削って直す、たとえばうちのテーブルやテレビボードの天板を外して送っていただいたら、削って直してまた取り付けられます。

宮島:テーブルは分かりますが、ボードの天板も外せるんですか。

無垢材で作ったアーリー・タイムス アルファの家具は天板が外せて、天板だけを修理に出すことが可能。

青森:はい、ねじを外してもらえれば(天板を)外せます。ボードを丸ごと送ってもらうとなると、中身を取り出したり、本体を梱包する手間が増え、配送費も上がりますが、天板だけなら梱包も容易ですし、宅配便で送れます。テーブルの天板を直すメーカーさんはほかにもあるでしょうけど、ボードのリペアはあまり行なっていないんじゃないですかね。天板を無垢で作っているところも少ないでしょうし。うちの場合、お客様の「捨てたくないけど傷をそのままにしておくのは嫌。直せませんか?」という要望に対する答えが「天板が外せる商品を作る」だった。

宮島:スローファニチャーの会でも大きなテーマの「クラフトマンシップ(※)」について、青森社長のお考えをお聞かせください。

(※)クラフトマンシップ……職工としての気概や誇り。ものづくり魂。職人の技能・技巧。

青森:向上心、チャレンジする意識を常に持ち続ける。今の形・状態が全てではないと社員に伝えていきたい。クラフトマンシップには人間形成も加わってくるじゃないですか。偉ぶらないとか謙虚でいるとか、人としてちゃんとした生き方をすることの方が、優れた技能・技巧よりも深い。先ほども申し上げましたが、使う人を思って作った家具と、そうじゃないのとでは違ってくるし、人に対して愛情を持って接するという姿勢が、究極のクラフトマンシップなのではないかと思います。

経営戦略のヒントは「現場=店外催事」にあり

宮島:経営戦略に必要な情報や知識は、どのように収集していらっしゃいますか。

青森:店外催事(※)で得られるものは多いですね。

(※)店外催事……幕張メッセや横浜大さん橋ホールなどのイベントホールを会場にして行なわれる家具販売イベント。ショールームやショップが会場の販売イベントは店舗催事。

宮島:社長自ら催事で接客や販売をされるんですか。

青森:はい。ほかのスタッフに交じって普通に接客して、販売しています。商品の説明をして「ここがお客様の琴線に触れたんだな」や「ここの部分がいいと思ってくれたんだな」など、お客様の反応をダイレクトに感じられる機会を増やすようにしています。

宮島:インターネットを使った情報収集、あるいは発信についてはどのような戦略ビジョンをお持ちですか。

青森:自社で販売サイトを作ることも考えましたが、商品の見せ方の部分でうまく進まない現実がありまして。ショールームにお越しになるお客様を見ていて感じるのは、カタログを熱心に見ている方が多いということです。カタログを見ながら勉強しているのか、ほかの商品と比較をされているのか、「ここに実物がありますよ」とご案内しても(カタログを)じっくり読み込んでいる。
お客様がご自身で情報を収集するスタイルは今後ますます強まっていくでしょうから、我々メーカー側が発信する情報量を増やすことが必須だと思います。一方で「商品を体感もしたいし実際に見ないと分からない」というご要望も、購入を決める大きなポイントになります。なので、うちの代わりにネットを使ってお客様に情報発信してくれる御社と手を組める今の状況はとてもありがたいです。

宮島:ありがとうございます。情報発信のツールも時代とともに衰退・進化し、最近でいえばスマートフォンの普及があります。さらに5G(第5世代移動通信システム)の運用開始で通信速度が向上したら、お客様に対するリアルタイム動画配信も可能になるかもしれない、なんてことを私は考えているんです。たとえばメーカーさんの工場にカメラを設置して、お客様のスマホに「工場長の●●です。ご注文のテーブルの製造工程は今この段階です」と製造の様子を撮影したライブ動画を配信する、といったことが実現すれば、お客様に情報を伝えきれず値段に走りがちな状況に、インターネットの新たな活用によって変化が生まれるのではないかと。

青森:自分の元に届く家具を、どんな人たちがどんな風に作っているのか見ていただくのはおもしろいですね。「こういう風にできあがっていくんだ」と感動や愛着が湧いたり、それが家族の話題のひとつになったりもするでしょうから。

若者には目的と意味を自分で考える力を持ってほしい

宮島:家具業界を目指す若い世代に向けて、メッセージをいただけますか。

青森:家具に限ったことではないかもしれませんが、「長く使える良い家具を選ぶ」ことの意義を考えてほしいです。今の若い方たちの間には「家具は高価じゃなくてもいい」という価値が広がっていると感じます。
それは販売側にもいえることで、家具を知らない人が多い。そういう人がお客様に商品を説明しているのを聞いていると「そんなこと言っちゃ駄目だよ」ということも平気で言っていたりします。物の価値についての教育がずさんだった時代の弊害が今の形になっている。
これから社会に出る方たちが「なんでこの家具なんだろう」とか「どうしてこういう家具を作ったんだろう」ということを知ると、ものすごい刺激になると思うんです。僕は、デザインは描けませんが「こういう風にしてほしいから、こういう感じのデザインで描いて」と物事の細かいところを伝えることはできます。そうすれば相手も「なるほど、だからこうなってるのか」と理解できる。そのあたりを知ったうえで家具を作る仕事をするのと、ただの家の道具として見ているのとでは大きな開きがある。ちゃんと使えるものと使い捨てられるものの違いは何なのか、なぜこういうデザインにして、なぜこういう風になっているのか考えられる土台があって就職するのとしないのとでは全然違うと思っています。
こだわる必要はないんだけど、教育、知識を得ることはとても大事だと思うので、そこを理解してくれると嬉しいですね。

宮島:いわゆる物を大切にするという感覚ですよね。使い捨ての文化はどうしても拝金的になりがちというか。我々の世代も使い捨ての文化で育ってきているので、責任があるかもしれません。長く大切に使う文化をもう一度呼び戻さなきゃいけない。

青森:僕の娘が小さい頃に「木がいっぱいある家に住みたいんだよね」と言ったことがあって、こういうのも教育なんだなと思ったんですよ。子どもって親の生き方を見てるんですよね。その辺を大事にしてるのとしてないのとでは生き方が違ってきちゃうでしょうから。

宮島:社員も見ています。社長をやっていると富士山の頂上で仕事をしているようなもので、そこから見渡せる全景と、すそ野や途中の5号目あたりで仕事をしている人とは見える世界、つまりは考え方が異なるわけですよ。時に社員が納得できないような部分を見せながら、やはり手本になる言動をしなきゃいけない。そんな中で社員がちょっと自分に似てきたなと感じられて嬉しかったり。娘さんもおそらくそうだと思うんですよね。

青森:そうだったら嬉しいですね。だからこそ間違った考え方や振る舞いはできないし、教育も大事だし、愛情というのも深いところで考えなくてはいけませんね。家具つくりにおいても、人つくりにおいても。

 

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