大手総合家具メーカーの社長が伝える「枠にとらわれない変化と進化」
2018年11月某日に敢行された、カリモク家具の加藤正俊社長と弊社代表・宮島一郎による社長対談。日本のリビング家具のリーディングカンパニーが抱える長年の課題、業界のトレンド、見据えた未来(さき)にあるものとは。
カリモク家具 PROFILE
日本を代表する、リビング・ダイニングを主とする総合家具メーカー。1940年、愛知県刈谷市で創業した木工所に端を発し、現在の本社所在地は愛知県知多郡。社名のカリモクは、1947年設立の刈谷木材工業株式会社の「刈谷木材」から。全国に26のショールームと3つのアウトレットを展開し、最新の人間工学・製造技術を取り入れながら、良質な素材と手作りにこだわった使い心地のよい家具を生み出している。
目次
- 大手メーカーも「若手の人材確保と育成」が課題
- 布張り最新家具のキーワード「カバーリング」「ラムース」
- リビング家具の新定番コンビはテレビボード&お仏壇!?
- コントラクトと海外営業の強化で景気の冷込みを打開
- 家具業界にも訪れたスマホファーストの波
- 品質に対する責任が、30年以上使える家具を生み出してきた
大手メーカーも「若手の人材確保と育成」が課題
宮島:御社を含めた家具業界や販売の現場、あるいは世相など2018年を振り返ってどうお感じですか?
加藤:販売の状況は今一歩ぱっとしない1年だったなというのが正直な感想です。全体としては店外催事の開催数が増え、お客様の来場はあるけれども、売上がつくれないお店が増えている。
宮島:それは小売店さんでしょうか?
加藤:はい。それから今年はカリモク60の京都店を閉めて、新たに大阪店をオープンしたんですが、都心部における販売人員の確保に苦労しました。以前からその傾向はあったんですが今年はとくに苦しかった。京都を閉めた理由のひとつにも人員の確保・維持の問題があり、大阪店との統合を進めたかたちですね。
宮島:店舗の統合はいわゆる働き方改革ですとか、その辺りを意識したものですか?
加藤:いや、そんな余裕のある話ではなく本当に人員が足りなくての結果です。ショッピングセンターのようなところで働き手を集めるのは、家具業界に限らずあらゆる業界で大変苦労なさっている点じゃないでしょうか。
宮島:求人の状況はここ5年ほどで大きく様変わりしました。当社でも求人サイトやハローワーク、諸々の媒体で人材を募ってもなかなか集まりません。とはいえ、全く応募がないわけではなくて、会社の理念や事業方針、考えと人材がなかなかマッチングしない。そんなイメージがあるんですが、御社でも同様でしょうか?
加藤:そういうケースもありました。私自身は平成元年卒のいわゆる「バブラー世代」で、当時はみんな幸せな就職活動をしていました。現在の新卒採用が当時ほど極端とはいいませんが、当社がいいなと感じる人材は大体他社の内定をもらっていますね。
それぐらい若い人材の確保は難しくて、中途採用を増やしたり、転勤を伴わない採用などをここ10年ほど地方エリアで行なっていますが、さまざまな方策を立てていかないと今後はますます厳しいと思います。
宮島:製造、あるいは本社機能の人材確保についても同様でしょうか?
加藤:はい。工場は若手の定着率が長年の課題ですし、営業もほぼ同様の状態です。加えて、勤続の長い、いわゆる幹部クラスが一定の年齢に到達しつつあるところに、次世代の中堅層の人材が不足している点も深刻ですね。
宮島:これらの課題を解決するためにはどのような取り組みをなさっていますか?
加藤:50後半世代にもうちょっと頑張ってもらうことと、若手の抜擢。このふたつです。外部から引っ張ってきて当てはめるとしても、それだけの人材がなかなか出てこないので難しい。人材の育成はいわゆるOJT、ペアセールスにしたり、(営業所の)所長が教えて若手が覚えていくというスタイルですね。
布張り最新家具のキーワード「カバーリング」「ラムース」
宮島:リビング家具のリーディングカンパニーである御社の、最近のトレンドは何でしょうか?
加藤:布張りの商品を選ぶお客様が増加しています。ショールームに限らず、ハウスメーカーや家具店さんの催事を見ても、同じような傾向にあります。
要因としては、当社も含めカバーリングの商品が増えていることが挙げられます。布は(革と比較すると)汚れが付着しやすい素材ですが、「カバーがあれば(汚れても)交換できますよ」とお客様にご案内できます。また、布カバー用の保護剤なども揃っているので、お客様の布張りの家具に対する抵抗感が薄れてきていることもあると思います。インテリアにこだわる方が昔より増えて「革より布がいい」と感じている方もいらっしゃるようです。
実をいうと、当社のように国内で革張りのソファをメインで製造しているメーカーは減りつつあるんです。そういった動向も影響しているのではないかなと思います。
国産パーソナルチェア「ザ・ファースト」
当社特有のものとしては、1人掛けリクライナー「ザ・ファースト」の販売が好調です。ライフサイクルの変化に合わせて家具を買い替えるマーケットが形成されつつあることは、我々の業界にとってプラスの話だと感じています。
ザ・ファーストは全部で6モデル
宮島:なるほど。以前と比較し、革製品と布製品の売上構成が変化しているのでしょうか?
加藤:いいえ。売上はこれまでと同じく布より革の方がずっと高い。布が増えたことによって革の売上構成比が少し落ちてきているという感じですね。
先ほども申し上げましたが、布張りのラインナップを増やしているんです。アメリカの「マハラム」のテキスタイルを使用した椅子ですとか。全社企画の「ペットと暮らすインテリア」では、旭化成のスウェード調の生地「ラムース」を使用した商品をご提案しています。ラムースはひっかき傷や汚れに強いという特長があり、ペットのいる暮らしにも布張り商品も取り入れられます。
リビング家具の新定番コンビはテレビボード&お仏壇!?
宮島:御社の商品群の中で成長した、あるいはトレンドが変化してきたものはありますか? ちなみに販売店である当社の実績では、テレビボードがよく売れています。
加藤:実はここ7~8年ほど、単価が高いテレビボードが売れる状況が続いています。昔、プラズマテレビが100万円もした頃、高額なテレビボードを発売したら、おもしろいくらい売れた時期がありました。テレビの価格が落ち着くにつれ売れなくなりましたが……。100万円のテレビに見合う高額なボードが欲しいという心理が働いていたんでしょうね。
ところが今は、テレビの価格は下がっているのに高価格のテレビボードが売れている。他メーカーさんでも同様なので、ちょっと不思議な現象ですね。
宮島:家電業界でも二極化が顕著ですよね。ドン・キホーテが中国やアメリカと組んでオリジナルの安価なテレビをつくる一方で、日本ではシャープやパナソニックが品質にこだわった高額なテレビをつくり、価格差があっても双方とも売れている。
テレビボードにおいても新たな市場の形成というか、構造的なものが変わってきているのかもしれません。
加藤:かつてのリビングと言えば、お皿やグラスを並べて飾って、プラス・テレビボードだったものが、今はテレビボードだけになっているんですよね。飾る空間としてのニーズが変化し、サイドボードやキュリオケースと呼ばれる家具は昔ほど出なくなってきています。
逆に変わりどころで言うと、当社が共同開発した「はせがわ様の仏壇」や「ローランド様の電子ピアノ」なども想定している置き場所はリビングなんです。リビングルームの使い方は時代とともに大きく変化していると感じます。
コントラクトと海外営業の強化で景気の冷込みを打開
宮島:2019年以降、日本では3つの大きなイベントがあります。5月に平成から新元号に変わり、ある種のお祭り騒ぎになるでしょう。10月には消費税の増税、さらに2020年に東京オリンピックが控えています。
我々としては、一番気がかりなのは消費税の増税です。増税前の半年間は、いわゆる駆け込み特需の機運が高まると予想されますが、一方で10月以降の冷え込みをどう乗り切っていくかもポイントになります。加藤社長はその辺りどのようにお考えですか?
加藤:ホームユースプラスαで、コントラクトに力を入れていく。オリンピックが関係するものもあるかもしれないので、そこはひとつ押さえどころだなと思っています。
もうひとつは海外営業の強化です。東アジアを中心に、輸出も比較的順調に伸びています。増税とは関係のない話になるので、その点でもプラスの材料になると捉えています。
宮島:東アジアとは、具体的にはどちらの国ですか?
加藤:今いちばん安定しているのは韓国です。3年ほど前に現地法人を設立しました。
かつての日本のように「現地ではやっているものを見つけて自国に持ち帰れば売れる」ということを、日本に対して考えている人が東アジアには多くて。当社の家具を見つけて、アプローチしてくる方が実は一定数いらっしゃるんですね。先方から声がかかる形で取引先が徐々に増えています。
宮島:販売チャネルを海外に向けて広げていくというお考えでいらっしゃるんですね。ちなみに東アジアのマーケットでも、生産拠点はあくまでも日本、メイド・イン・ジャパンですか?
加藤:現状はそうですね。マレーシアに工場があるんですが、ゴムの木の製材のみで家具をつくる能力はないものですから。日本から船でコンテナを乗せて、かれこれ10年ほど、ミラノの展示会に出展するなどヨーロッパ向けの試みを重ねてきましたが、東アジアでの勝算がより高いという結論に至ったというところです。
宮島:増税後は国内のマーケットが冷え込むことを前提に、今のうちに販売チャネルを広げて、増税の影響を受けない対策を取られているということですね?
加藤:5%から8%に上がったときは、一定の盛り上がりを見せたあとそこまで極端な落ち込みはなかったんですが、今回は予断を許さないというか、東京オリンピックが控えているのもあり、正直読めないところが大きいです。オリンピック閉幕後、(開催国は)1年半は経済が停滞すると言われていますから。
家具業界にも訪れたスマホファーストの波
加藤:今朝、電車の中で改めて実感したんですけど、新聞を広げているのが私だけで、あとは皆さんスマホ三昧。かつてはPC全盛時代の波に乗り、セイルーさんとの出会いもあってネットを使った集客で成功を収めてきました。しかし、今や時代はスマホが主流ということへの認識に遅れがあった。自社をスマホファーストの波に乗り遅れた会社だと、痛切に思います。
たとえば当社ではカリモク60を「20代でもがんばれば手の届く価格帯の商品」と捉えていたんですが、職業体験に来られた専門学校生20人に「カリモク60を知っていますか?」と聞いたらひとりも知らなかったという恐ろしい現実がありまして。自分の子どもを見てみれば確かに、雑誌も買わないし新聞ももちろん読まない。スマホを使ってほとんどの情報を収集している時代に、当社は色々な意味で出遅れたんだなと。
そこで、20代のカリモク認知度を上げるためにも、アマゾンジャパンとの取引を開始しました。お陰さまで、なかなかに面白いことになっていますよ。
宮島:インターネット通販業界は今や寡占化され、日本では楽天にヤフー、そしてアマゾン。これが三大巨頭です。他社が何をやっても、三社のように構造的なものはつくれないでしょう。そこに御社が乗っていくことは時代の流れ上、間違いではないと思います。ただ、価格やブランド価値を守るための線引き、見極めは非常に大切なので、闇雲にネット上に載せればいいというものでもない。
総務省が昨年発表した統計データでは、スマホから情報をキャッチしている人の割合は実に83%。100人中83人ですよ。とくにお年寄りの世代が伸びつつあるそうです。スマホをうまく取り入れた情報発信の方法を、我々の業界とどのようにつなげるかが今後の鍵になると感じます。
加藤:2018年は、今までカタログやコンピュータの中にしかなかった商品情報を、スマホで気軽に見られるアプリを開発しました。これをさらに発展、たとえば在庫が確認できて受発注もできるようになるだとか。当社とお得意先様どちらにとっても、商品を売るときの生産性を高めるための使いこなし方を考える時代だと思っています。
宮島:受発注コストは商品管理のなかでも大きなコストがかかっています。アナログの手作業がデータ化されれば間違いやミスが減り、リアルタイムに新しい情報が伝わることになる。もうひとつがAI、要するに人工知能ですね。人口減の日本において、企業の労働生産性を下げないために、ぜひお願いしたいところです。
加藤:その骨格は徐々に組み上がりつつあるので、うまく拡張できればやれるんじゃないかなと思っています。今まで基幹ソフトに莫大な維持費を投じてきたものが、スマホで簡単にできてしまうというのはなんとも恐ろしいですけどね(笑)。
品質に対する責任が、30年以上使える家具を生み出してきた
宮島:今後、さらに注力していきたいことは何でしょうか?
加藤:ショールームの全国網を完成させることでしょうか。残り2つの営業所にショールームを持たせれば完成なんですが、最近地価が上がりだしてきているので、急がず気長に探そうかと。
あとは、緒川工場の耐震工事が今年で終わり、新しい設備も入るので、それを活かした商品開発も進めていきたいですね。
宮島:商品開発ではどのような点にこだわっていらっしゃいますか?
加藤:当社の企業理念でもある「品質至上」です。お客様が当社の家具に求めているものは何かを突き詰めると「丈夫で安心、長持ち」につながるのかなと。多少の負荷がメーカー側にかかることになるとしても、品質に対する責任を果たしていかなければならないと常に心に思っています。
宮島:私の実家でもカリモクのコロニアルを約20年使っていますが、まったくガタがきていません。
コロニアルシリーズとは?
カリモク初のトータルなコーディネートのできるシリーズ家具として1974年に発表。アメリカ開拓時代の伝統的なコロニアル様式がモチーフ。民芸調の持ち味と、簡素で実用的なデザインの中にも優雅さを備えたスタイルを現代風にアレンジしている。
加藤:修理の依頼で、家具を持参でショールームにお見えになるお客様がいらっしゃるんですが、修理品に付いているステッカーの表記がカタカナの「カリモク」なんですよ。1987年にアルファベットの「karimoku」表記に変更したので、30年以上前からお使い頂いているということになります。お直しするときれいになりますから、そこからまた末永くお使い頂けるのは本当にありがたいです。
うちの社員が「自分、こんなものを修理しました」と社内報で上げてくれるので、それはできるだけ目を通すようにしています。
宮島:御社の今後の展望、業界をリードしていくためにどのようなビジョンをお持ちでしょうか?
加藤:業界の枠を超えなくてはいけないということ。家具業界で小売りに成功している人たちは、いち早くネットショップを手がけただとか、家具以外の商品も売っているだとか、枠にとらわれず臨んだ結果だと思います。ニトリさんも家具屋さんというより暮らしの提案をする会社ですよね。
当社が何か家具以外のものを作れるのかと問われたら、現状何かあるわけではないですけどね。我々の業界はそういうことを考え、派手にならず、しかし着実にやりながら変化していくべきだと思います。
宮島:最後に、お客様へ伝えたいメッセージをお願いします。
加藤:数ある家具の中から、せっかくカリモク家具をお選び頂いたのなら「大切に長くお使いください」。
家具の原材料である木が育って伐る状態になるまで早くても60年はかかるんです。順番に植えて順番に伐っていく、サイクルが続いていく原材料ということで我々は取り組んでいるので、そういうものを使って家具を作りご提供する以上は、長くお使い頂けると幸いです。