プロに聞く:フランスベッド 絨毯企画推進

ペルシャ絨毯・手織り絨毯インタビュー
フランスベッド株式会社
絨毯企画推進 岩田達明 氏
フランスベッド株式会社東京営業部でペルシャ絨毯、手織りの絨毯全般を企画、推進されている岩田達明氏に、インタビューを行わせて頂きました。
さまざまな角度からペルシャ絨毯・手織り絨毯の魅力について質問させていただきましたので、これから絨毯をお選びになられる方にとても参考になる内容になっております。
※本記事は2009年1月掲載の内容になります。
※紹介商品は現在お取り扱いございません。
目次
- ペルシャ絨毯の始まりについて
- ペルシャ絨毯の魅力について
- ペルシャ絨毯と日本家屋
- 手織り絨毯の織り方の特徴
- 絨毯が出来るまでと出来てから・・・
- イランでの買付け秘話と人気工房
- おすすめのコーディネート
- 人気のペルシャ絨毯は?
- 絨毯のお手入れ方法
- 読者へ一言
ペルシャ絨毯の始まりについて
鈴木初めまして。本日インタビューをさせて頂く鈴木と申します。まずはお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。
岩田初めまして、岩田達明と申します。
鈴木ご担当の部署、普段のお仕事についてお伺いしたいのですが。
岩田部署は東京営業部という所に属しております。そこの推進係ということで手織りの絨毯専門の係になります。そこで15年ほどこの仕事をさせて頂いております。主な仕事の内容につきましては、手前どものお得意様(家具専門店様、寝具店様)にペルシャ絨毯、手織りの絨毯全般を企画、推進をさせて頂いております。また、東京近辺、首都圏で行われますフランスベッドの扱っているベッド、寝装品全般などをご提供しているユーザー展、展示会の方で絨毯も出させて頂くことが主な仕事の内容となります。
鈴木大変長く絨毯をご担当されているということでまさに絨毯のご専門でプロですね。
岩田そうではないんですけどね(笑)。私も25年、フランスベッドに勤めていまして、ベッド関係のルートセールスの営業をやっていたのですが、絨毯の方が15年ということなりますので、今はベッドよりも長くやっていますね。
鈴木それでは、早速、ペルシャ絨毯についてお伺いさせて頂きたいと思います。ペルシャ絨毯のはじまりについて、どのような目的で絨毯が作られ始めたのか、教えていただけますか。
岩田一説には、絨毯ができまして、当然、これは機械ではなく手で作る絨毯なのですが、今から3000年前とも4000年前とも言われております。どこで作られたかと言いますと、中央アジア一帯ですね。中央アジアと言いますと砂漠の国。皆さまもご存じかと思いますが、砂漠の国ですから昼間は非常に暑い、一方、夜になりますと急激に温度が下がりまして、非常に寒いんです。一日の寒暖の差というのが、だいたい30℃位違うのです。そのような、非常に過酷な条件の中で人間が生活することはとても苦しいことなのです。砂漠では、農作物をあまり作ることができません。そうなると、そこで住んでいる人々が何をするかと言いますと、羊を飼い、羊の肉や毛の売り買いをしています。これは商売ということには当てはまらないかもしれませんが、そういうことで食文化というものがある訳ですね。その中で、ある日、羊の毛の持っている温度が18℃の温度を保つことができる事を人間が発見するのです。羊の毛は、暑くても寒くても外気にはほとんど影響なく、18℃の温度を保つことができます。18℃の温度というのは、人間が一番快適に暮らすことのできる温度、ちょうど今の春と同じくらいの陽気でとっても気分の良い温度ですよね。その発見によって、羊の毛を刈り取ってフェルト状にして、それを砂漠の中に張ったテントの中に敷いて人間が生活をし始めたのです。そのような人間の生活の知恵から絨毯が生まれたと言われております。しかし、そのフェルト状のものは綿なので、切れてしまうのです。使っている間にぐしゃぐしゃになってしまうため、何かいい方法がないかということで手織りでパイルを結んだ絨毯というものが生まれるのです。それが、3000年前とも4000年前とも言われています。当然、私も生まれていませんので、本当のことは分かりませんが、一説によりますと、そのような始まりがあると言われています。また、世界の中で一番、最古の絨毯と言われるものがあります。それは、アルタイ山脈、パジリクのスキタイ王族の古墳から発掘された絨毯が“世界最古の絨毯”と言われています。これを分析しますと、紀元前5世紀に作られた、2500年位前の絨毯ということになります。私も、その絨毯は写真でしか見たことが無いのですが、その絨毯はたまたま凍り付けの状態で発見されましたので、生地として残っていたのです。今も3分の2程度の状態で現存していまして、非常に目の細かい絨毯と言われています。それは、現在、ロシアのエルミタージュ美術館に保存されています。ロシアに行かれた方で、エルミタージュ美術館でご覧になったことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、私は残念ながら見た事が無いので、是非見てみたいなと思っています。ですから、その絨毯が今まで発見された中では最古の絨毯となります。その絨毯がとても緻密な織りのものなので、始まりについては、3000、4000年前、もしかしたら5000年位前からなのかもしれませんね。
鈴木とても長い歴史背景と生活するための知恵が始まりにあるのですね。素材はウールの毛から織り始まったということにはとても驚きました。ペルシャ絨毯といえば、シルクでできている絨毯というイメージがとても強いのですが、シルクの素材が使われるようになったのは、ウールよりも後になるのですか。
岩田シルク素材が使われるようになったのは、おそらく最近であったと思います。絨毯は、生活の必要性から生み出されましたが、シルクは絹で光沢感がありますので、装飾用の絨毯ということで、おそらくイスラム教ができてから作られるようになりました。ペルシャ絨毯とは、現在、ペルシャという国はありませんので、主にイランで作られる手織りの絨毯がペルシャ絨毯と呼ばれ、世界各国に出荷されています。実際には、イラン中で絨毯は作られていまして、カシャーン、クムという産地ではシルクの絨毯を作っていますが、あまり多くの産地でシルク素材の絨毯を作ってはいません。今から100年位前からシルクで織られるようになったと言われているため、まだまだ歴史は浅いのです。ただ、王様に捧げる絨毯というものは、その前から作られていたのかも知れませんが、出荷をし始めたのは100年位前からと言われております。ですから、主には、ウールの絨毯が多いですね。実際にヨーロッパは、ペルシャ帝国と地続きになっています。日本は島国になりますので、絨毯はシルクロードを渡って中国から伝来してきたので、絨毯に関しては、ヨーロッパが一番早いのです。ヨーロッパは、土足の生活でございます。シルク素材の絨毯は、土足の生活には耐えることができませんので、ウール素材の絨毯が主なものとなるのです。シルクの絨毯は、あまり踏まない所においたり、壁掛けにしたりと装飾用の絨毯として、ヨーロッパでは取り入れられているようです。シルクの素材も素足で踏んで使用して頂ければ、ペルシャ絨毯は100年近くお使い頂くことができますので、日本の生活には適しており、それだけ長持ちするのです。土足でお使いになりますと、なかなかそこまでは耐えることができませんね。
鈴木ヨーロッパから、そして各国に広がっていったのですね。それでは、日本では、どの位の時期から使われ始めたのですか。
岩田いろいろ文献などもございますが、日本では安土桃山時代の豊臣秀吉がペルシャ絨毯を切り、陣羽織にしたものが現在も残っています。現在は、京都の高台寺に保管されていて、一年に一回しかお目見えすることができないようです。そうなりますと、1500年中頃には、西からの文明が入っていたようです。ご存じの通り、豊臣秀吉も変わった物を大変好まれたと言われていますので、お部屋にも当然敷いていたと言われていますね。
ペルシャ絨毯の魅力について
鈴木続いて、ペルシャ絨毯の魅力について教えて頂きたいのですが、ペルシャ絨毯を拝見いたしますと、まず目に飛び込んでくるのは、美しい柄とデザインですよね。これらの柄とデザインはイスラム教の思想が深く関係していると聞いたのですが、詳しく教えて頂いてもよろしいでしょうか。
岩田ペルシャ絨毯は、ほとんどの物がメダリオンタイプのデザインになります。絨毯の真ん中のデザインには、イスラム教のモスクという寺院の丸天井を見上げると、ちょうど中心にこのような丸いものがありまして、それをモチーフとしております。それをゴンバッド模様と言います。このメダリオンから周りを囲むようにツタのようなデザインがされています。日本の風呂敷の唐草模様は、このツタの模様からきています。これは、エスリム模様と言いまして、ツタがグルッと円を描いて、途切れなく、絡まっているような模様になりまして、永遠の生命を説く躍動感を感じさせる柄がペルシャ絨毯の中には多いですね。ただ、いろいろな柄がございますので、全てがイスラム教に関係しているわけではありません。実際には、遊牧民が生活の中で使うと言うことで、ペルシャ地方の中では、イスラム教ができる前にゾロアスター教が交流していたのですが、その中で、実は、犬が珍重されていまして、神的な扱いの動物になります。遊牧民は羊を飼っていますので、羊というのは彼らにとっての財産となります。羊をオオカミなどの外敵から守るということで、必ず犬を飼っているわけです。ですから、犬の全体像ではないのですが、絨毯の一部分の中に走る犬文様が省略されていたり、縁の所にギザギザの三角形になった模様があるのですが、これは犬の牙を意味してデザインされています。そのような省略された模様で四隅を囲うことは、外敵から身を守る、家内安全という意味がありますので、それらをデザインの中に取り入れている絨毯もありますね。
鈴木ペルシャ絨毯には、草のツルや花などの植物をモチーフにしたものが多いように感じるのですが。
岩田そうですね。実際にイランはほとんどが砂漠地帯になっております。当然、水の豊富な場所もありますが、やはり、砂漠なので水がない。そうすると、植物などもあまり育たない。ですから、やはり水、あるいは花や植物への憧れがあるんですね。楽園を思い浮かべて、お花の柄や、ツタの模様、水の模様を非常に多く使うようで、憧れが込められて織られているということがあるようです。バラをモチーフにした華やかなものなどもあり、一枚の絨毯に何十色と色を使っていても、どこのお部屋に持っていっても合ってしまうから不思議ですよね。
鈴木お色のお話を頂きましたが、一枚の絨毯でどのくらいの色数が使われているのでしょうか。大きさによっても違うかとは思いますが。
岩田そうですね。例えば、同じブルーでも濃い物、淡い物、明るい物とブルー系統の中でも何色も使います。大きさやデザインによって、色数は違いますが、大体30色から40色は使われています。そうなりますと、ペルシャ絨毯は手で結んでいく絨毯になりますので、日本のはた織りのように一度にパタンとやれば一列できるというものではありませんので、色数が多ければ多いほど、手が込み、非常に手間が掛かります。
鈴木産地によって色の特徴というものはありますか。
岩田イラン全土でペルシャ絨毯は作られているのですが、5大産地(イスファハン・ナイン・クム・カシャーン・タブリーズ)の中では、日本で人気のある産地、ナインは、まだ絨毯を織り始めてから100年位の産地ですが、ここの特徴は、色がベージュ色を使うことが多いんです。もちろん、その他の色も使われていますが、必ずどこかにベージュ色が入っているので、日本家屋に非常に合わせ易いです。ほかの産地のものになりますと、イスファハン、タブリーズは、ヨーロッパに大変人気の高いものが多いです。色は原色使いのものが多いのが特徴で、日本でも販売されております。また、日本では、シルクの馴染みがありますので、クムのシルクの絨毯は人気がありますね。素足で踏みますと、とてもヒンヤリして気持ちがいいんですよ。土足での感触はそうはいかないですから。先程、申し上げ忘れましたが、ウールは18℃、それでは絹は何度かと言いますと、14.5℃位になります。ですから、ウールよりは若干、ヒンヤリしています。特に夏はシルクの絨毯は肌触りも良く、非常に気持ちがいいです。ですから、日本ではシルクの絨毯が人気があるのですね。
ペルシャ絨毯と日本家屋
鈴木ナインの絨毯は日本家屋に合いやすいとのことですが、和室の畳の上に敷いてお使い頂いてもとても合いそうですよね。
岩田そうですね。私も統計を取っているわけではないのですが、15年間、毎日のように販売などに携わらせて頂き、お客様にお求め頂く際に、“どこでお使いになるのか”とお伺いするのですが、今までの記憶では、大体4割から半数のお客様が和室で敷かれる方なんです。洋風建築のフローリングの上に敷かれる方は残りの6割位です。日本全国広いので、多少地域によっても違うかとは思いますが、和室に敷かれている方は、とても多いんですよ。色合いもマッチしますし、また、機械織りではありませんので、裏にのり付けがされていないため、非常に通気性が良いのです。素材のウールとシルクは、湿気を吸い取って発散する作用がございます。梅雨時に雨が1週間も降り続いた時は、畳が湿り気を帯びますよね。その湿り気をどんどん絨毯が吸い取って、発散していってくれるのです。
鈴木機械織りの裏にのり付けがされているカーペットを畳の上に敷きますと、通気が良くないため、畳に湿気がこもって、畳がむれた状態になってしまいますよね。当然、カビの発生の原因にもなるかと思うのですが。
岩田そうですね。手織りの絨毯に関しましては、おそらく何十年敷いて使って頂いても、その絨毯の下は、畳がまっさらという状態です。あと、いいことがもう一つありまして、座布団が要らないのです。そのまま直に座って、正座をして頂いても足がしびれません。非常に心地がいいのです。
鈴木この感触は、座布団を使ってしまうのがもったいないですよね。和室のお話をお伺いしたので、もう一つ、床暖房のフローリングの上に絨毯を敷くことはどうなのでしょうか。
岩田せっかくの床暖房なので、絨毯を敷いたら温かさが損なわれるのではないだろうかと思われている方が多くいらっしゃるかと思いますが、ペルシャ絨毯の場合は、まず通気性が良く、また、多少の毛足があり、床の暖かい空気が絨毯にたまりますので、とても温かく心地がいいのです。ところが、やはり機械織りのものは、裏にのり付けされていますので、溶けるということは今作っているものでは無いでしょうが、それを心配されて機械織りの絨毯をあまり敷きたくないなという方はいらっしゃいますよね。また、これは皆さんに聞いて頂きたいのですが、今、絨毯イコールダニの巣と思われている方は結構いらっしゃると思うのですが、実は、それは機械織りの絨毯の事になりまして、機械織りの場合は目が立っていますので、人間のふけや食べかすなどが入ってしまいます。そのようなものがダニの好物になりますので、集まってしまいます。そのダニが好物のダニもいますので、絨毯イコールダニの巣ということになってしまうのです。ただ、フローリングのまま何も敷かないでお部屋を使う場合では、当然の事ながら、人間がそこで生活をしていますので、夜になりますと、ホコリが必ず下に降りてきます。目には見えないのですが、床面から30センチ位にホコリが一番溜まりやすいのです。朝起きて、そこのお部屋に一歩踏み込んだとたんに、その行き所のないホコリは必ず四隅の方に押し出されていくのです。そうすると、止まりようのないホコリを、お掃除好きの奥さまは、気にされてお掃除をして取る。これは、フローリングでは当然のことですよね。手織りの絨毯であれば、目が斜めになっていますので、ふけや食べかすが中に入らないんですよ。ですから、非常に衛生的です。絨毯を部屋いっぱいに敷くのではなく、皆さんがいつもいらっしゃる所だけに敷けば、ホコリがそこで止まるんですね。そこの上をお掃除すれば、四隅にほとんど汚れが行かないということになります。目に見えてホコリは減りますよ。ですから、お掃除好きの奥さまにとっては、非常に楽になります。それを是非、私は申し上げたいですね。
手織り絨毯の織り方の特徴
鈴木手織りの絨毯は、斜めに目が立っているということですが、織り方に何か特徴があるのでしょうか。
岩田そうですね。絨毯を見て頂きますと、両端にフサがございます。このフサというのは縦糸になりまして、これは上下つながっています。これがひとつのベースになっているのですが、厳密に言いますと、この2本の縦糸に色の模様になっている色のついた糸を8の字に絡めて、このような模様ができています。
鈴木縦糸はフサの色で一色使いになっていて、横に絡ませていく糸が色のついた糸になるんですね。
岩田はい、そうです。手結びと言いまして、これは口ではなかなか説明しづらいのですが、2本の縦糸を織り機にグルッとはわせまして、前の糸と後ろの縦糸があり、それを絡めていく行程になり、横にひとつずつ結んでいき、最終的に横の列が全部結び終えますと、その縦糸の間に締め糸をはわせて、鉄のくしみたいなものでどんどん詰めていくわけです。そうしますと、目が必ず下に下がって、斜めになりある一定の目になります。目が斜めなのでペルシャ絨毯は、向きによって、濃くみえたり、淡く見えたりするのです。ゴルフ場の芝の目、順目と逆目ということで芝目が濃くみえたり、明るく見えたりすると言いますが、それは芝の目が全部寝ているという状態になっているんです。ですから、絨毯の目は斜めになっているので、液体がもし、こぼれたときに瞬間的に液体は止まるのです。ですから、目の中には入りません。機械織りの場合は、機械で上から垂直に刺していますので、目は床面に対して垂直になります。そうすると、どんなに目が細かくても中に入ってしまいます。ところが、手織りは斜めになっているので、大丈夫です。ですから、土足で踏まれても、土やホコリは中には入らないのです。表面にはもちろん付きますが、表面に付いた汚れを取るのは、雑巾がけをして頂くだけで大丈夫です。ヨーロッパでは、1週間に一度、定期的にモップをギュッと絞って、雑巾がけです。もちろん、掃除機はありますが、目に付く汚れは雑巾がけで取れるということです。
鈴木機械織りのカーペットと比較すると、お手入れも楽な上、衛生的ですよね。
岩田そうです。また、品質やお使い方によっても違いますが、ウールのものでしたら、土足で踏まれても100年近く使えます。ヨーロッパでは、親子3代で使うということが通説なんですよ。
鈴木色が違って見えて不思議だなと感じていた方が、私も含めて、多くいらっしゃると思うのですが色の見え方が違うのは、織り方なんですね。機械織りでは、どこから見ても一緒なので・・・。手織りの絨毯は2通りの色の楽しみ方ができますね。
岩田夏になると入り口に明るく見える向きで敷き、秋から冬にかけてはその逆で濃く見えるようにしますと温かみがありますので、季節ごとに向きを変えてお使いいただけると同じ絨毯でも2度楽しむことができますよね。特にシルクは光沢がありますので、極端に変わりますよ。
絨毯が出来るまでと出来てから・・・
鈴木ペルシャ絨毯がどのように作れられているのか、生産工程のお話をお伺いしてもよろしいでしょうか。まず、ひとつひとつ手で結んで織り上げていきますので、大変手間と時間のかかる作業になるかと思うのですが、一枚の絨毯を作り上げるまでにどの位の時間が掛かるのでしょうか。
岩田一概には、大きさの違いや結びの細かさもありますが、例えば、ここに縦100センチ、横100センチの1平方メートルの絨毯があったとします。シルクの素材で結びの細かいものであれば、この1平方メートルの中で100万回結んでいるものもあります。これは1センチ角で100回結んでいることになります。また、同じ1平方メートルの中で25万回の結びの絨毯もあります。その2つは、同じ大きさですが、手間が全然違います。また、糸が細いと結びにくいのです。当然、色を多く使えば、時間が掛かります。ウールのちょっと荒いものでは、25万回位の結びのものもあります。糸が太いと結びやすくはなりますよね。ですが、それが4分の1の時間でできるかというと、もっと短い時間でできるんです。そうですね、どれ位の時間が掛かるかと申しますと、1日でベテラン中のベテランの織り子さんで5000回位、普通の織り子さんで3000回位です。そうすると、1平方メートルのものを3000回の計算をしますと、だいたい約1年は掛かります。実は、1平方メートルでお話し致しましたが、ペルシャ絨毯というのは正方形というのはあまり無いんですよ。玄関マットサイズ(ザロチャラクサイズ125センチ×80センチ)の大きさで大体1平方メートル位になります。
鈴木ちょっと小さめかなと感じる玄関マットサイズで、一枚が出来上がるのに1年位も掛かるんですか!大変な手間と時間が掛かっているのですね。それでは、もっと大きなお部屋に敷くようなサイズの絨毯は大変ですよね。
岩田そうですね。そうなりますと、大きなお部屋に敷くサイズのものは、一人ではできませんので、2人、3人位が並んで、同時に結んでいく方法になります。中には2年掛かったり、あるいは5年掛かったりというものもあります。その手間が値段にも反映されるわけですが、細かくなればなるほど緻密な柄になり、糸が良くなればなるほど、きれいな絨毯になります。例えば、イスファハンのものになりますと、ウールですが、縦糸がシルクで作られていまして、ウールのパイルを結んでいくことで、細い線で色柄をしっかり出すという産地によっての特色もありますね。
鈴木柄が浮き出てみえるような印象が特に、中央のメダリオンの部分にあるのですが、そう見せるための特殊な技法が何かあるのでしょうか。
岩田技法は特にございませんが、色の加減だと思います。もちろん柄もございますが、例えば、赤系の色が真ん中にあって、ブルーがそれを囲うようになっていますと、反対色になりますので、青が沈んで赤が浮き出て見えるようになりますよね。柄を力強く強調させますと、浮き出たり沈んだりして見えて、見方によっては立体的に見えるということがあります。色に関しては、ペルシャ絨毯に使われている色の組み合わせは、日本人がこの色とこの色はまず合わないだろうと思うような配色の組み合わせを見事に合わせるようにしています。それは、非常に驚きますよ。ヨーロッパのインテリアの仕事をされる方は、ペルシャ絨毯の色柄を学ぶのです。色に関しては、とても日本人が考える組み合わせではないですね。また、ペルシャ絨毯は出来上がりが一番最悪の状態とよく言われまして、使えば使うほど色や柄に味が出てくるので、ベージュ色のものはあめ色となり、深い味わいが出てくるんです。その絨毯がオークションで出品されて、より高い値段で競い合われ買うわけです。日本にはそのようなことはあまり無いのですが、ヨーロッパは、それだけの歴史や文化が長いので、そのようなことがあるのですね。
鈴木使い込めば使い込むほど味が出て、また愛着もわきますよね。
岩田日本も戦後からそんなに経っていませんので、海外からいろいろな文明が流れてきたのも遅く、ペルシャ絨毯を使っている方というのはいないに等しいんですね。ペルシャ絨毯のみならず、中国の絨毯を含めた手織りの絨毯でも、日本では世帯別で1割に満たないです。外国、特にヨーロッパでは、6割以上が手織りの絨毯を使っているのです。それだけ、歴史や文化が違いますので、しょうがないといえば、しょうがないんですが。
鈴木ヨーロッパに比べて、日本の普及率が1割も満たないのには、ビックリしました。
岩田ですから、日本でも100年位使っていらっしゃる方もいるかと思いますが、ほとんどの方はまだ新しい状態なんですよ。本当の色の良さというのはまだお分かりになっていないと思います。私もイランの買い付けに行きますと、絨毯博物館という所がありまして、そこには、100年前や50年前の絨毯で実際に使い古したものが何百点も一枚、一枚展示がされているのですが、もちろん素材はほとんどがウールになります。それを拝見しますと、とてもいい色になっています。ですから、ウールに関しましては、使えば使う程ビロードの輝きになって、光沢が出てきます。羊の毛ですので、踏まれると、油分が出て、それが光沢に変わっていきます。それに魅せられてしまうのです。
鈴木ヨーロッパでは使い込んだ絨毯がアンティークのような扱いになり、味の出た美しさが価値となるのですね。どうしても絨毯といいますと、機械織りのものをまず想像してしまい、消耗品というイメージがありますよね。
岩田そうですね。確かに、機械織りの絨毯は10年ごとに買い換えたりしますよね。けれども、手織りの絨毯は、一生の内では使い切れないんですよ。新品の絨毯をお求め頂いて、その方が亡くなる時にでも、いい絨毯にはなっていないんです。その方の2代目、3代目と受け継いだ時にやっといい絨毯になってきたのを感じることができる状態になるのでしょうね。
イランでの買付け秘話と人気工房
鈴木イランへ絨毯を買い付けに行かれた時のお話をお聞きしたいのですが。
岩田はい。毎年一度、8月に1週間、イランの首都テヘランでイラン中の絨毯が集まる大展示会が行われるのです。とても広い会場で、日本で例えますと、幕張メッセの展示会場が1会場、大体2000坪から3000坪、その大きさが10会場ある位の広さです。そこに世界各国のバイヤーが集結して買い付けをするのです。当社フランスベッドは絨毯の取り扱いを始めてからまだ20年ですが、その20年の中でだんだんとイラン人との人間関係もできてきまして、ヨーロッパ並みに買い付けができるようになってきたかと感じています。
鈴木そちらの展示会で買い付けをした時の裏話などはございますか。
岩田このようなことをイラン人の方に知られてしまいますと、いけないのかもしれませんが・・・。これすごいな、これいいなという絨毯があった時、そのことを顔に出すと駄目なんですよ。
鈴木何でですか?
岩田足元を見られてしまって高く買わされてしまうからなんです(笑)。人間関係ができている所は、そのようなことは無いのですが、正直申し上げまして、人間関係の無いブースではございますね。とても広い会場になりますので、一週間の開催の中では全部のブースを見ることはできません。ですから、当然、我々と知り合いのイラン人もいれば、全く知らないブースもあるのです。そこで、同じクオリティのものを人間関係のないブースに行きますと、人間関係のあるところよりも値段が3倍になってしまうということもあるのです。ですから、人間関係が非常に重視されます。また、買い付けをする時は、日本でのペルシャ絨毯はまだまだ普及されていませんので、正直何が売れるかどうかが分からないんです。私も毎日のように接客をさせて頂いておりますので、日本の方の好む色や柄など、そういったものはわきまえているつもりですので、実際に会場に行きまして、それに見合うものを選んでくるのですが、ヨーロッパのバイヤーの買い付けというのはまた違うんですよ。ペルシャ絨毯に対しての歴史、文化が長いので、お客様一人一人のリクエストを図って買い付けるのです。ですから、この柄はあのお客様、この色はあのお客様と選び、無駄な買い方はしないのです。私もイランに行った時、たまたまヨーロッパのバイヤーと会いまして、買い方は非常にシビアでしたね。ただ我々も、むやみに買い付けもできませんので、これ本当に売れるのかと心配してヒヤヒヤしながら、仕入れをしています(笑)。また、その仕入れの時は、我々とペルシャ絨毯との出会いもあるわけです。ペルシャ絨毯とは、よく言われるように一品ものです。同じ柄というのは基本的にはありません。デザインは一緒かもしれませんが、所々色を変えて作られています。このことは、イスラム教に関してそういう教え的なものがあるとよく言われていまして、ペルシャ絨毯は世界で一枚のものとなるようです。イランは、気温が50度近くある非常に暑い国ですが、その中で我々もたった一枚のものとの出会いがありますので、やはりイランに行くことは楽しいですね。それで、我々が買い付けたものをご提供するお客様との出会いもあります。また、その8月の展示会で買い付けを主にするのですが、どうしてもそこで柄や値段的な折り合いなどでいいものが無かったということもございます。その場合は、産地に向かいます。そして、直接、クムの工房に行ったり、あるいはイスファハンに行ったりしまして、現地で方向を変えて、買い付けをすることもありますが、大体は、その8月の大展示会で仕入れをしています。
鈴木ただいま工房のお話がありましたが、人気のある工房についてお話を伺いたいのですが。
岩田そうですね、人気がある工房というのは、やはりいいものを作る工房になると思います。例えば、クムでは、ラジャビアン工房、マスミ工房という所が挙げられるかと思います。シルクを織る工房の中でも有名な工房になりまして、シルク絨毯の工房の中ではトップクラスになります。その工房で制作された絨毯は、もちろんお値段も高いのですが、最高の財産となります。
鈴木デザインや柄ゆきの人気もさることながら、高品質で作られているのも人気のひとつになるのですね。その工房ではどのような様子で絨毯が織られているんですか。
岩田はい。工房は実際には、家内工業になります。イラン中にいくつ工房があるのかは、私も分かりませんし、無数にあるかと思います。工房では、例えば、織り機が300機ほどある工房では、一家にひとつ織り機を与えまして、織り子さんが自分の家で絨毯を織る、織り上がったらそこのオーナーの所に持っていくと言う形をとっています。300機、400機も持っている大きな工房もございますし、10機ほどの所もございます。ほとんどが家内工業的な話なんですね。イランという国は、織り子さん自身もあまり裕福ではございませんので、織っている場所というのは、石の煉瓦造りの砂漠によくある家の中に織り機を置いて作っていますね。
鈴木織り子さんは、女性の方が多いようなイメージがあるのですが。
岩田男性の織り子さんもいますよ。けれども、絨毯を指で結んで作っていくため、やはり、女性の細い指で結んでいくほうが緻密な絨毯には向きますので、女性の方が多いかと思います。工房で本当にいいものというのは、大体15歳から20歳くらいのベテランの方が織られているんですよ。
鈴木その年齢でベテランになるのですか!
岩田そうなんです。もちろんお年を召された方もいらっしゃるのですが、だんだん目が利かなくなってきてしまいますので、あまり緻密な絨毯はできないんです。工房を卒業されて、それから自分の作りたい絨毯を織っている方もいらっしゃいますね。ブランドのあるものということになりますと、工房で作られたものが求められます。ある程度有名な工房になりますと、大体15歳から20歳くらいの女性が織っていますね。一番美しい時に絨毯に命を捧げる、そういう気持ちで作っているということになりますね。
おすすめのコーディネート
鈴木絨毯のお勧めのコーディネート方法をお聞きしたいのですが。
岩田ペルシャ絨毯の素材はウールとシルクです。素材の好みもあるかと思いますが、日本では、お家に入られるとまずは玄関ですよね。玄関は“家の顔”と言われますのでお客様をお迎えする意味でも、いい絨毯を敷きたいですよね。そんなに頻繁には踏まない場所なので、クムなどのシルクの絨毯を敷かれるとお客様が来られた時に必ず目に飛び込みますよね。お家の雰囲気によっては、ざっくりしたウールの絨毯もよろしいかと思います。そして、玄関を入りまして、次はリビングですよね。応接セットのソファの中敷ということでお使い頂くのがいいかと思います。リビングはその部屋に皆様がいつもいらっしゃる場所となり、そこでくつろいでお茶を飲んだり、コーヒーを飲んだりして、こぼし汚してしまう可能性もあるということが考えられます。そうなりますと、シルク素材よりウール素材の絨毯が適しているのです。ウール素材の絨毯は、もし熱いコーヒーをこぼしてしまっても汚れの取り方がございます。お手入れの方法によっては、汚れがきれいに取れてしまいます。一方のシルク素材は、水には弱いので、ちょっと危険なことがある場所ではあまり良くないです。私自身も何枚か使っておりますが、リビングにはウールの素材の方がお勧めですね。
鈴木そうなりますと、ダイニングルームでテーブルの下に敷いてお使い頂く場合にも、ウール素材の方が適しているんですよね。
岩田そうですね。いろいろこぼしてしまう可能性がございますので、やはりウールですよね。また、ダイニングの場合の椅子を引いたり閉まったりして絨毯が擦れてしまうことにウールはとても強い素材なのです。シルクは、多少デリケートですから、擦ることには弱いんです。ですから、ダイニングにもウールの絨毯の方がお勧めですね。また、お客様をお通しすることがメインの応接間では、お客様が来たときだけの利用が多いかと思いますので、シルクの絨毯がよろしいかと思います。和室で敷かれるものには、お客様をお迎えする場所ということでシルクの絨毯をお使いいただいている方、結構いらっしゃいます。横2メートル、縦3メートルのガリサイズ、畳数で言いますと、約4畳位の大きさのものがお勧めです。その大きさのものをお部屋の真ん中に敷かれて、その上に座卓を置いて、周りに座っていただくことができる大きさになります。そうしますと、お通しされたお客様も座布団が要りません。絨毯の上に座ることがひとつのご馳走になりますので、シルク素材の方がいいのではないでしょうか。
鈴木そうですね。直接絨毯の上に座るということでは、シルクの素材の方が肌触りは良いですよね。
岩田氏:「我々、日本は裸足の国になりますので、感触も大切になりますよね。また、産地によっても違うのですが、ウールも非常に柔らかいものもありますので、用途によってそういったものもよろしいかと思います。」
鈴木素材別で用途を上手に使い分けて頂くことがお勧めになりますね。
岩田はい。産地でというよりは色柄、あるいは素材から考えて頂くといいかと思います。また、絨毯は敷物ですから、敷くだけと思いがちですが、別にこれをどうお使い頂いてもその方の自由になりますので、壁にタペストリーとして掛けられたり、寝室で外国映画で見るような感じのベッドの横のベッドサイドステップとして、それを踏んでベッドにあがるという敷き方もいいですよね。女性の方でしたら、お化粧するドレッサーの椅子の下に絨毯を敷かれると、なんだかお姫様になったような気がしますよね。お使い方は自由ですので、ここに敷かなければいけないということもありません。外国などでよく見かけるのは、大きなお部屋に大きいサイズの絨毯を一枚という敷き方の他に、適当なサイズの絨毯を、例えば、140センチ×200センチ位のちょうどソファの中敷位の大きさになるのですが、それを互い違いにアトランダムに敷かれている方も結構いらっしゃいますよね。それを見ますと、非常におしゃれな感じがいたします。それも、色柄を合わせるのではなくて、マチマチの方がかっこいいんですよ。どうしても、我々日本人というのは、色柄が合ったようなものを合わせてしまいがちで、おもしろみが無くなってしまったりすることがあるのですが、いろいろな自由な発想でお使い頂くことが一番かと思います。
鈴木実際、ペルシャ絨毯の産地のイランではどのようなお使い方なのでしょうか。
岩田イランという国は、日本と同じで室内では裸足です。もちろん土足の方もいらっしゃいますが、最終的には靴を脱いでの生活でございます。使い方としては、日本に良く似ていますね。
人気のペルシャ絨毯は?
鈴木タペストリーについて詳しく教えていただけますか。
岩田はい。普通、ペルシャ絨毯は、上下と左右はだいたいが対象ですよね。ところが、タペストリーとして作る場合は、一方通行の柄ということで上下や左右がある柄が多いんですよ。特に言われますのは、生命の樹文様ということで、これが一方柄なのです。先程もお話ししましたが、イランは砂漠地帯で水が無いことので、水が必ず下にあり、そこから樹が伸びているという柄があります。樹というのは、人間を表わしていまして、繁栄を意味していますので、そういうものをタペストリーにされる方は多いですね。また、イスラム教の教会の入り口というのは、必ず円柱型になっていて、天国へ続く門という意味があるようです。そういうものを柄や模様にしてタペストリーとしてお部屋に掛ける場合もありますね。それを掛けることで、このお部屋は天国へ続くお部屋という意味になります。また、狩猟文様もありまして、王侯貴族が狩りをする文様です。それは、ヨーロッパの方では魔よけの意味を兼ねていまして、狩りをしている人達がその家を守るという意味があると言われています。しかし、そういうものは、大体がヨーロッパに出荷されてしまい、日本にはあんまり入ってこないんです。我々が買い付けに行きますと結構ありまして、見ることができるのですが、すぐに無くなってしまいます。タペストリーは、上下左右が非対称のものでも、逆に吊るせば濃くなったり明るくなったりしますので、それを楽しんで頂く事もできますよね。お使いになる方の工夫で楽しんでいただければと思います。
鈴木最高級品のペルシャ絨毯、1億円以上の価格がついたペルシャ絨毯があると聞いたのですが、どんな絨毯なのでしょうか。
岩田ペルシャ絨毯は、ウールの絨毯が基本となります。シルクは歴史がまだ100年位しか経っておりません。実際には、シルクは擦り切れてしまう場合もあるのですが、ウールは踏めば踏むほど色合いや光沢が必ず出てきます。ですから、実際に高値がついている絨毯は、必ずウールで100年位使い古して、色が良くなってきたものが価値がどんどん上がります。あるいは、柄が大変珍しいものということもあります。シルクでそういうものというのは、今のところはありません。ヨーロッパやアメリカでサザビーズというオークション会社がございますよね。そこでは、よく絨毯の先程お話ししたようなものがよく売買されています。新品のものでは、現在、そこまでの値段がつくものは無いですね。
鈴木シルク素材の絨毯は高級品というイメージがありましたので、その位の価値の出るものはシルクで緻密な柄のものかと思っていました。そのような深みの出たウールの絨毯を見てみたいですね。今とても人気のあるギャッベのお話を詳しく伺いたいのですが。
岩田一番始めにできた絨毯は、実はギャッベだと言われているんです。ギャッベは今、若い方にとても人気があるのですが、この名前は、むこうの言葉で“毛足が長い”という意味なんです。これは、遊牧民がテントの中でギャッベを地べたに敷いて、その上で生活をするための絨毯で、当然、素材はウールでございます。糸をまかなえるものは、羊しかございませんので、縦糸も横糸のパイルも全てウールになります。染めは、全て草木染めです。遊牧をして生活していますので、化学染料はありません。ですから、周辺にある草などで色をつけています。ギャッベは全体的に染めにムラがあり、均一に染まっていません。それは、羊の毛に油分があって、染まりにくい部分ができてしまうのですが、そのムラにとても風合いがあり、素朴な感じが魅力で、ヨーロッパでとても人気があるのですが、日本でも特に若い方に人気がありまして、お求め頂く機会も多いですね。徐々に日本でも人気が出てきましたので、私も非常に嬉しいんです。ギャッベを若いときにお求め頂き、ペルシャ絨毯というものを味わって頂いて、それからだんだん緻密なものを楽しんでいただければ嬉しいです。また、絨毯は結局一生で使い切ることができませんので、若く早いうちから使っていただいた方がいいんですよ。若い方に早くから使っていただきますと、より楽しめますよね。
鈴木ギャッベは、本当にその色合いが素朴な感じでとても魅力的ですよね。柄もシンプルなものが多いので、比較的どんなお部屋にも合わせやすいですよね。
絨毯のお手入れ方法
鈴木お手入れについてアドバイスを頂きたいのですが。
岩田日本でお使い頂く場合には、土足で踏まれるという方はあまりいらっしゃらないと思いますので、裸足でお使い頂く場合のお話いたします。一番気を付けて頂きたいことは、足の油分ですね。例えば、1年は1月から12月までございますが、5月から9月位までは、靴下を履かないで、素足でお家の中に居られることが多いですよね。靴もサンダル履きになって、多少汚れた足、汗をかいた油分、そのような足の状態で玄関のところに敷いてある絨毯を踏み、お部屋の中へ入りますと、その場では汚れが付いたということは分からないですよね。それが、毎日踏みますと、やはり黒ずんできます。ペルシャ絨毯を含む手織りの絨毯全般は、玄関では1ヶ月に1度、バケツにぬるま湯を入れて、食器洗いの中性洗剤を少しだけ(2押し位)入れ、雑巾を固く絞って絨毯の目に沿って拭いて頂くお手入れが一番いいと思います。それを定期的にして頂ければ、足の油分や汗を落とすことができますので、お洗濯に出す必要が無くなってきます。お手入れをせずに何年か経って、ずいぶん黒くなってきたなと気が付いた時には、なかなか汚れは落としづらくなってしまいます。ですから、なるべく1ヶ月に1度程度、雑巾掛けをして頂くことをお勧めします。また、お部屋の絨毯の場合は、1年に1回位でいいかと思います。10月位、寒くなってきて靴下を履いて室内に居始める頃に半年間の汗や油を拭い去って頂ければ良いと思います。それを守って頂くだけでだいぶ違いますよ。
鈴木そのような簡単なひと手間をして頂くだけでぜんぜん違うのでしょうね。また、何かこぼしてしまった場合は、すぐの対処を心掛けて頂くことが大切ですよね。
岩田そうですね。後は、お部屋のお掃除の時に掃除機を一緒にして頂ければよろしいかと思います。
鈴木汚れに関しては、絨毯は床に敷いて使うものなのでどうしても気になる部分ですよね。汚れが付きにくい加工が施されている絨毯があると聞いたのですが、詳しく教えて頂いてもよろしいでしょうか。
岩田はい。これは、イランの方では施されていないのですが、日本に入荷してきた時に、当社の方で、京都のパールトーン社(着物の撥水加工をする会社)と提携しておりまして、絨毯に撥水加工がされているものもございます。シルク素材で、何かこぼされた時も、水が玉になって弾かれてしまいますので、慌てずに、拭いて頂ければきれいになります。そういう加工が施されている絨毯もありますが、基本的にウールの素材のものは、油分が結構強いので、メンテナンスは楽ですね。
読者へ一言
鈴木最後にこちらをお読み頂いている方に一言お願いしたいのですが。
岩田ペルシャ絨毯は、昔からヨーロッパでは“魔法の絨毯”と言われています。空を飛ぶというわけではないんですが(笑)。これには意味がございまして、小さいサイズの絨毯でも織り子さんが一年位の時間を掛けて出来上がります。私たちと同じ人間が作っているわけです。ところが、人間は喜怒哀楽というものがございます。人間が作るものなので、場合によっては、織り子さんがむしゃくしゃしていたり、悲しいことがあったりということもあります。図面はもちろんあるのですが、そういう気持ちで絨毯を織ると、気持ちに左右されて柄が歪んだりすることも当然出てきます。しかし、それは許されないことなのです。織り子さんが作る時というのは喜怒哀楽があろうが、神経を集中して、精神統一をして、それらを全て乗り越えて、一番いい気持ちで結んでいかなければならないのです。目には見えませんが、非常に織り子さん自身の“気”というものが絨毯に入ります。最終的にその絨毯をお使い頂く方も人間です。喜怒哀楽があり、気分がむしゃくしゃしている時もありますが、絨毯の上に乗りますと、心が和むんですよ。それは、絨毯の気がその方の気を助けてくれるんです。ということで、気持ちを変えてくれるということから“魔法の絨毯”と言われるのですね。このことは、ヨーロッパでは定説でございます。絨毯にいろいろ助けられ、一生涯では使い切ることができないので、これを今度はお子様に託す。そうなると、親子三代で同じ絨毯を使っていく。そういうこともあって、ペルシャ絨毯は、ヨーロッパで非常に普及しています。私も今、このように申し上げておりますが、私自身もペルシャ絨毯のとりこでございまして、実際病気のように惚れ込んでおります(笑)。ペルシャ絨毯イコール緻密で綺麗な絨毯だと誰もが印象をお持ちなのですが、本当の意味での絨毯の気持ちを是非分かってもらいたいと思います。それには、やはり使って頂かないとそういう気持ちは、味わえませんので、私が声を“大”にして言いたいことは、ペルシャ絨毯は商品の良さもペルシャ絨毯の心も知って頂きたいです。そうしたら、日本でも非常に普及していくと思っています。


